別れの曲 (9) 淡々と流れゆく時

さすがに祖父が九州を離れる前には完結しないとなーというわけで、最終回。
しかしこの旅程を思い出すだけで疲労が蘇ってくるのは何故だ。まぁ、ほんと強行軍だったもんなぁ。誰がどう観ても「一番遠くから参列した人」だし。

ごあんない(毎回掲載しますよ)

このシリーズは、07年3月に mixi 生中継していた、祖母の葬儀に伴う北九州・八幡滞在の模様を、みくし日記の文と携帯写真を元に大幅加筆再構成したものです。

空港までの道中。タクシーの運ちゃんと、少し話が弾んだ。これから受験に合格した人が住居確保でよく空港を使うだろうということ、小倉の家賃はやっぱり安いこと、空港利用者100万人突破してよかったねってこと、等々。
そんなことを喋りつつ、車は例によってかつての自宅近くを通過。
祖父がうちの実家へ来てしまえば、わたしが小倉へ来る理由はほとんどなくなる。今度こそ、お別れかもね。
ばいばい、元我が家。

タクシーの中で、わたしはひとつの可能性を真剣に検討していた。
正月から数えて4回めのフライト。そろそろ SFJ にも飽きてきた。機内の TV とか間違いなく往路と一緒だし。北九州空港にはもう1社、JAL も来ている。ちょっと高いが、気分を変えるにはいいかもしれない。間に合ったら乗ってみるか。
…両親から今回の交通費を多めに出してもらって、気が大きくなっていたからに違いない。
空港到着後、メーテルをちらりと横目に JAL 窓口へ直行、自動券売機であっさり購入完了。羽田からの到着遅れで10分程遅延があるようだが、ともかく待つだけ。ロビーど真ん中の待ち合い席に腰をおろす。

と、スーツの兄ちゃんが近寄ってきた。しまった、勧誘だ、と気づいた時には立ち上がれない状態。あーめんどくさー。どうやらアメックスらしい。暇なのでつきあってやることにした。
だがしかし、安く上げるためにあえて年会費無料カードを選んでる人に「有料だから個人情報は他所へ流れない」とか、有名人が持っていると言われても一切触手が動かないような人に「持ってるだけでステータス」とか、飛行機が日常茶飯事じゃない人に「VIP 待合室使い放題」とか、的外れ感が最強。結局、全部話を聴き終わったところで
「家族に相談してみないとー、わたしの一存では作れませんのでー」
はい終了。こういうとき女は便利だ。権限ないふりができる。

もう捕まらないように立ち上がり、昼食を確保して土産物屋をうろうろ。すると、館内放送が耳に入った。
JAL、クラス J。1000円上乗せでワンランク上のサービス、とか言ってるよ。
なに、たった1000円? それだけでビジネスクラス並みになるのか? 座席広いの? 風邪気味の身体をゆっくり休めるには最適かもしれない。突然興味がわいてきた。窓口で聴いてみるとまだ余裕がある模様。即決で振り替えてしまった。

そして予告通り、10分遅れでの離陸。
座席は前から2列め。横は窓、隣は空席。広かった。ゆとりの幅もさることながら、角度ばっちりのフットレストが猛烈に嬉しい。目の前にはサービスで貰ったお菓子と、さっき買った折尾のかしわめし。な、懐かしい…。

最初にもらったジュースを速攻飲み干してしまっていたのだが、こんな味の濃い弁当を飲み物なしで食しているのを気づかれてしまったアテンダントのお姉さんが、お茶を出してくれた。おかげで美味しく完食。うん、確かにサービスいいな。

弁当を食べ終わり、色々読みながらのんびりしていたら、あっという間に羽田。
クラス J は快適だったけど、さすがにこの2日の疲れが癒えたわけではなく。発車寸前でようやく見つけて乗った、町田ゆきのリムジンバスで、2人掛けの座席に倒れるように眠った。昔、ながらで寝てたときみたいに。
あとはもう、タクシーを捕まえてどうにかこうにか道順を説明し、横浜の家へ。

結局、感傷に浸る時間はほとんどなかった。大量の移動時間と少ない睡眠時間の末に、横浜では現実が待っていただけだし。そのせいなのか何なのか、わたしは未だに、祖母のために涙を流していないままでいる。
いつか、ふとした瞬間に、ちゃんと悲しむことができるといいな。

今日も祖母の写真の前には、花とお茶とお菓子が並ぶ。

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