こだまする未来の手前で (4) 幻の山の6人
16 Mar 2010
とうとうこの記事を上げる日が来てしまったなぁ。W 編成お見送り記録、最終回。
米原駅に戻り、わたしは思い出の味を仕入れた。生まれて初めての「乗り鉄」、97年の東海道在来線乗破の道中、昼食に買い求めた井筒屋の鱒寿司。それを手にして向かうは近江長岡。引き戸を開けるのもためらう強風に、待合室にこもってランチタイムとしつつ、沿線へ出向く頃合いを見計らう。
13年前には予想だにしなかった目的を持って同じ駅弁を食べている。だから人生はおもしろい。
29A が大量のお見送り隊に囲まれて首都のターミナルを後にしたであろう、12:30。わたしも出発。伊吹の山に覆い被さる厚い雲。それでも微かな望みを抱いて進む。
さあ、どこで撮ろうかな。
実は決めていなかった。でもなんとかなるという変な確信があった。桜並木の横、小さな山の前、加勢野、柏原。なんだかんだで度々通った、この一帯。猛暑でも極寒でも楽しかった。もう来ないかもしれないから、あとは自分の足に任せよう。
車道を外れ、まだ花には遠い桜に沿って歩く。道は次第に枯れ草に覆われ、うっかりすると草の種の襲撃を食らう。
このまま行くと柏原。きっと多くの人がいることだろう。わいわいも好きだけど、今日はちょっとその気分じゃない。心静かにその時を迎えたい。引き返し、土手の下に降りた。
その場所に立って初めて、流し撮りすると決めた。
慣れている地域とはいえ、狭義では初のポイント。しかもまだまだ苦手な流し。わたしの技量を考えると色々チャレンジャーだが、今思えば、無意識にあえてそうしたのかもしれない。楽な方へ流れるのではなく、懸命に挑むことで、W 編成の最後の仕事に対する最大限の敬意を示すために。
1時間弱の練習は、とても静かに過ぎた。
14:30。柏原の方向に、きらりと目が光る。
残念ながら、山の神様への思いは届かなかった。けれど、わずかに光をまとった横顔。築堤の辺りだけ、うっすらと陽が射していた。まるで花道を照らすスポットライトのように。その先には、ほんの少しだけ青空が。
必死で追いかけた21枚。バッファフルへの恐れも忘れて振り続けた。長く美しいうなぎが、あの小さな山のトンネルに消えようとする寸前まで。
あぁ、これで最後なんだ。ふと手が止まった。
もう通らない東海路を、いつもと同じように滑らかに駆け抜ける、400m の完全な姿。短いトンネルを抜け、加勢野の向こうへ消えるまで、呆然と見つめていた。
ついったーで500系さん宛に感謝の念を書き残し、小さな山の傍らでカメラをしまっていたら、たけぞうさん親子に見つかった。よく考えたら、意外にも夏以来お会いしてなかった。
燃え尽きて帰るわたしと違い、これから黄色さんも狙うとのことで、移動ついでに駅まで送っていただけることに。しかも長岡じゃ不便だからと米原まで。本日の大移動のお話なども伺いつつ、楽しいプチドライブはあっという間。お世話になりました。次は多分山陽エリアで。
一息ついて、それから乗り込んだ新快速でひたすら眠る。目覚めたのは新大阪。視界を埋める、シャンパンゴールドの淀川。にわかに寂しさが全身を埋め尽くす。
最寄り駅のホームから見つめた西の空へ陽が沈んだのは、W1 の長い旅が終着駅に到達したちょうどその頃だった。
撮影的には完璧には程遠かった最後の2日間。でも、この時に立ち会えただけでも良かった。ごく短い間ではあるけれど、500系のぞみと同じ時代を生きたことは、きっと一生誇ってもいい。今はまだ、それを過去のこととして語る気分にはなりきれないけれど。
Comments
おはようございます。
名古屋付近から見てもこの山だけ雲がかかってあとは快晴でした。でも加勢野以西の40人には当たらなかった光がさすあたり山の神様がちょっとだけサービスしてくれたのかもしれませんね。
帰る方向が全く同じなので本来ならご自宅市内までお送りすればよかったですが29Aをorzしてしまった男はしっかりもう1本を目指して気合が入ってたので・・・(米原駅前でしばらく行き先を協議してましたW)
その息子は黄色のあとに”宿題(作文)”があったので車内にてやってましたがやはり長文化した模様ですw
今度はVを追いかけまたどこかでお会いできることと思います。
おはようございます。
撮らない時に限ってよく見える山でしたが、雲の切れ間から観た青空はある意味で格別でした^_^
29Aで気合が途切れない辺り、実に将来有望で頼もしいですw
わたしはどっちにしろ電池切れ確実で(カメラじゃなくて自分が)もとから撤収するつもりでしたから、米原まで乗っけていただいただけでも大変助かりました m(__)m
こちらは既にVの追っかけをぼちぼち始めてますので、お互いエンジン全開になった頃にはご一緒する機会もありそうですね。
こんにちは。
500系への最大限の敬意が報われた流し撮りだったのではないでしょうか?もしくは姿を見せてくれなかった伊吹の山神様の射光と共に、ちょっとしたご褒美だったのかもしれません。
「手が止まった」。私も流し撮りだった事もあり鉄橋を渡り終えてコンクリートの壁に消える少し前に手が止まりました。ファインダー越しでは無く肉眼で見ようと思ったからなのですが・・・。
最後の写真、何となく空の色と言い架線の曲がり具合と言い、空を駆け抜けて行く500系の様に見えてしまいました。夜勤中に暫く眺めてしまったのは秘密です^_^;
さて、うちは思い出記事が終わりました。そろそろ次に向けて摸索を始めようかと思います。いつもまでも悔やんでいては前に進めないですし。VもEも待っている^_^
こんにちはです。
観ての通り実はめっちゃ弱気なSSですが、堂々とした走りっぷりになんとか応えることができたように思います。伊吹の神様も、雲の切れ間からこっそり見送っていたのかな?
トンネルを抜けた後は、わたしも直接観ていました。写真に残らない「最後の一瞬」を、それぞれ自分の眼に記憶できたわけですね^_^
空の1枚は本当に偶然です。まっすぐ西をめざす姿…終着駅までの無事を祈り続けたすべての人たちの思いが、空に宿ったのかもしれません。
ご存知の通り、次への準備は少しずつ始めているのですが、思い出シリーズが6回かけても完結しないことが昨夜発覚しましたw それはそれとして、現在進行形で毎日頑張っているVたちにもエールを送りに行くとしましょう^_^
公開から30日以上経過した記事のコメントは締め切っております。あしからず。